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No.49 地球環境技術推進懇談会 10周年記念シンポジウム パネルディスカッション

「環境目標達成のため望ましいのは炭素税か排出権取引か」




 

2003年10月15日(水)、(財)大阪科学技術センター大ホールにおいて「迫り来る炭素税と排出権取引の社会」というテーマで「地球環境技術推進懇談会」10周年記念シンポジウムが開催されました。シンポジウムでは(財)地球環境産業技術研究機構 茅陽一氏 が「京都議定書への対応と京都メカニズムの役割」と題し基調講演を行った後、(財)日本エネルギー経済研究所 工藤拓毅氏による「欧州における環境税(炭素税)の動向と環境税制構築における課題」、大阪大学社会経済研究所 西條辰義氏による「地球温暖化対策の国内制度設計:炭素税vs排出権取引」、Climate Experts 松尾直樹氏による「来るべき炭素制約社会におけるビジネスの視点」についての講演が行われました。

これらの講演を受けて、茅陽一氏のコーディネイトならびに司会進行により、「環境目標達成のため望ましいのは炭素税か排出権取引か」をメインテーマに活発なパネルディスカッションが行われました。その模様を以下に誌上レポートいたします。

環境税を適正に配分する具体的な方法論はあるのか

【茅】

本日のパネルディスカッションに先立ち、パネリスト3人の方に40分ずつ、かなり中身の濃い話をしていただきました。当然、これに対してみなさん方から質問もおありと思います。そこでまず、3人の方々に私の方からお一人ずつに対して、お話しいただいた内容について質問しますので、それについてお答えをしていただきます。その上でフロアの方々からどなたに対してでも結構ですから、質問、コメントしていただいて答えていただく形にしたいと思います。

 まず、工藤さんは、環境税の状況についてお話ししていただきました。現在、環境省が提案している環境税は炭素トン当たり3,400円と聞き及んでいます。この場合の特徴は、額としては比較的低いので、そのため、一般消費者に対して負担は少ないのですが、それより、額が小さいのでほとんど影響がない、つまり価格弾力性の面から考えますと、上乗せしたことでただちに需要が減ることは考えられないだろうということです。

 それに対し、環境省側の考え方というのは、その環境税の税収を適正に配分することによって省エネルギーを実現でき、それによってトータルのCO2の排出を下げるということだと聞いています。

私がこれについて問題だと思うのは、それは理論的には成り立ちますが、現実の問題として環境税をどういうところにどのように配ったら、効果的にCO2の排出が下げられるのだろうか、それをどのような形で見つけて、どうやるのだろうかという具体的な方法論が分からないのです。これについて知っていること、お考えがあれば教えて下さい。

 

産業中心となる可能性が高い

【工藤】

 炭素税、環境税、ヨーロッパでもいろんなバリエーションがあるとお話ししましたし、当然税率は高い、低いと、いろんな組み合わせがありますが、今ご指摘いただいた環境省の私案である低率の炭素税と、それによる税収を還元することで目的達成ということについてお話しします。

 先ほど、炭素トン当たり3,400円、これはヨーロッパから見ても相対的に低いレベルですが、この意味づけは部門によって全く違うと思います。価格弾力性の話で言えば、家庭、交通、特に自家用車では、これで大きな直接的削減効果が得られることはありません。しかし、例えば、エネルギー集約的な事業者から見ると、大変な負担になる可能性もあります。従いまして、総論としては、現在のエネルギーの使い方の中で考えますと、その効果の出方は違ってくということになります。また、そういった流れの中で、税収を還流して効果的な政策を打とうとした場合、特に民生、運輸部門で実施するとなるとなかなか難しい。結局、補助金などによる様々な施策措置による効果的な措置は、相対的に見れば産業中心になるのではないかと個人的には思っています。

 

違う条件の中で税収を均等に還流し効果を挙げるのは難しい

税収を得て、それを還流しましょうということ。これは一種の補助金と同じわけです。一方で、そもそも税金を導入しましょうという動機付けは何なのかというと、規制が中心の政策措置を価格を通して効率化しようということです。ですから理論的にはどうしても疑問符がでてしまう。また、税収を効率的に、還流できるか否かは、各産業による限界費用を政府サイドがある程度確定的に押さえた上で、税率の設定や、還流方法を考えないといけません。

還流方法として、例えばオークションみたいな形でやったらどうだろうというアイデアが出てきているみたいですが、実際に具体策にもっていけるかどうかについては、私は難しいと思っています。

もっと細かいことを言いますと、例えば、価格弾力性の小さい民生部門の中でも、実際に他のエネルギーの用途、例えば、自動車から公共交通に移行できるかどうかといったインフラの整備状況であるとか、気候条件などの要件がそれぞれ違うという中で税負担の公平性を保ちつつ、還流による効果をあげることは、非常に難しいと思っています。しかし、だから駄目というのではなく、最近、石油や、石炭について増税がされましたので、その税収による対策効果をまず評価する。そしてその評価を前提として、低率の税収還流型炭素税パッケージの可能性について、判断する必要があると考えます。

 

コストの上昇分が消費者のエネルギー価格に上乗せされるのか

【茅】

 この環境税問題というのは、この10年いろんな形で議論されていて、今回たまたま環境省の中央環境審議会、いわゆる中環審ですが、ここの検討会の中間まとめが出ています。これがパブリックコメントにもかかわるという状況になったので、大変議論が出てきていますが、おそらく、これが現実化するためにはまだまだいろいろな軋轢があることを私も予想しています。

 また、今工藤さんがおっしゃったようないろいろな問題点がありますので、これを入れたらすべての答えが出るということでもありません。これがどのようになるかはまだ予断を許さないと考えています。

 次に西條さんに質問します。西條さんのご提案というのは、大変思い切った提案で、私も初めて伺いましたが、面白い提案です。理論的に考えればよく分かる提案です。そして、西條さんが言われるように、キャップを掛けなくても、上流の燃料に掛けることによって自動的にその燃料コストに上乗せされた排出権で買った分は燃料価格に転嫁され、それが下の省エネルギーにつながる形で全体がうまく機能するというお考えだろうと思います。しかし、現実性という点でいくつか問題があると思います。

 第一は、こういった方式をとった場合、一番直接的にCO2削減の影響を受けるのは燃料を直接購入する石油、電力、ガス業界に限られることになります。おそらく石炭も含めますので、鉄鋼もそうでしょう。その他の産業界、一般消費者はもちろんですが、そういったところには一切直接のものは掛からずに、単に購入する価格の部分だけで入る形になります。

そうしたときに、二つポイントがあり、一つは、果たして国全体のキャップという意味ですが、それを掛けたことにより、コストの上昇分がきちんと産業界を含めた消費者のエネルギー価格に上乗せされた形になるかということです。従来の燃料業界の弱さ、例えば、石油業界を考えると、そう簡単にはいかないのではないかと考えます。したがって、燃料を扱う業界は、強い反発をするのではないかと思われます。

 二つめは、こういったことは省エネルギーが大事ですが、ほとんどそれは産業界でも下流に属するところ、あるいは消費者が行っています。そこのところにこれではほとんどインセンティブが働かないのではないか、それをどのような形でカバーするのか、この二点についてお尋ねします。

 

石化業界は価格の上乗せを当然することができる

【西條】

 経済学の中には機会費用という概念があり、シャドープライスです。仮に、私たちが京都議定書のターゲットを満たし得た状況に達したとするならば、実際に払っていようがいまいが、何がしかのシャドープライスが掛かってくるのです。私の提案した制度は、京都議定書のターゲットを達成し得ることができます。

一つめの、石化業界が排出権の価格部分をきっちりと乗せてくるかどうかということですが、当然やっていいわけです。大手を振ってこれまでの価格の上に乗せてほしいと考えます。こういう制度を導入した限りにおいては、彼らがどういう状況であれ、価格に上乗せできる状況を作ってしまうので、当然彼らはやってくるでしょう。そして、価格が上昇したことが下流に響いてきます。しかし、先生が言われるように、下流の方々までにはなかなか響かないのではということですが、相対価格の変化を通じて当然下流の方まで響いてくるわけですから、そういう価格体系の中でたくさんガソリンを消費したい人は、価格が変化しているのですから、消費すればいいのです。その中で目に見える形で響かなければ駄目な制度ではなく、上流で掛けてしまうのですから、当然下流にも響いてしまう制度です。

 

経済に対する影響を緩和する制度を練習しておく

もし、この制度が国際排出権取引制度とくっついたときには、先ほど、松尾さんが言われたように、炭素トン当たり、それほど高い価格が上乗せされない状況が起こり得るのですから、めちゃくちゃな価格が掛かってしまい、日本経済を崩壊させる事態は起こらないと思います。

今回の話の中では提案しなかったのですが、2004年に見直しをしておいて、例えば、2005年のCO2の排出量が90年比の110%くらいだとすると、108%、107%の若干の負荷をかけて、同じ制度を実行します。もし、あまりにも排出権の価格が高くなるようならば、政府はあらかじめ準備した排出権を余分に供給することにより経済に対する影響を緩和する制度を練習しておいて、2008年から実施すればスムーズに移行できるとも考えます。

小泉さんが政権を離れることが数年先に訪れるとすれば、多分消費税は掛かってきます。そうすると、ある意味合いで炭素税と同じ効果が発揮されるので、私が提案したGトレード制度がやりやすくなります。消費税が掛かるとエネルギーに対する需要が減ってくるので、京都議定書のターゲットが自然に達成できる状況が起こってきますので、ますます、Gトレード制度が導入しやすくなる環境ができてきます。

 

CDMは具体的にどういうことができるのか

【茅】

 私は必ずしも全部納得したわけではないのですが、時間の制約もあるので、ここで切らせていただきます。

 次は、松尾さんに質問します。ビジネスとしての排出権取引、あるいは、もう少し広く言うと、京都メカニズムについてお話しされました。具体的な対象に対してどういうことができるのかの話があまりなかったように思います。例えば、CDM、これは私も最初に申しましたように、ロシアの批准うんぬんにかかわらず、今後もかなり拡大するのではないかと考えるのですが、ただ、途上国でどういうことをやるのがCDMになるのか、また、どういうものが可能性として高いのか、具体的に大きなCO2削減ポテンシャルを持つのかとなると必ずしも今の段階では明確でないように思います。この点について伺いたいのです。

 

いろんなやり方をうまく絡めて使う方法がある

【松尾】

 CDMがやっと動き出しました。どういうプロジェクトがありうるのか、どういうものであればやりやすいのかの話でいうと、いまでは化学系が一番です。私がやっているのはHFC23の場合ですが、N2Oも含めて、いわゆる温暖化のメインであるCO2系よりも化学系がやりやすいでしょう。グリーンハウスガスの種類でいうと、GWPの大きいもので、CO2でないものの方が効果的ですね。ローコストでたくさんの収入が得られます。ただし、CO2系はできないのではなく、再生可能エネルギーは比較的やりやすいものでしょう。また、再生可能エネルギー系では、バイオマス残渣の話を若干しましたが、それにメタンをいかに絡めるか、これが一つのデザインの仕方です。メタンはGWP21ですから、メタン1t分削減すると、CO221t分になりますので、そういう意味で少ないメタンであっても、たくさんのCO2削減効果になります。そういうものをいかに絡めるかが一つの考え方です。

 日本が一番得意技の省エネルギーはできないということではなく、(今まで一つとして表には出てきていませんが)先ほど少しご説明しましたように、何らかのアンダーライングなプロジェクト、例えば、IPPという海外で発電所を作るプロジェクトを考えた場合、発電所を作るプロジェクトを全部CDMでやろうとすると難しいのですが、単なる普通の案件のIPPとして効率38%の火力発電所を作るという話があったときに、(実は技術的には45%くらいまで上げられますが、例えばインドネシアでやるときには38%がいいところで、それ以上はお金がかかって仕方がありません)その場合に、アディショナルに上げられる技術余力のある7%分をCDMとして行います。その分お金がかかりますが、CERというクレジットが獲得できることによって、その分追加的にお金をかけることができます。あるいは、石炭火力からガス火力に替える手もあります。そういうやり方などをうまく使います。

 

日本の高い技術を使う場としてCDMを使う

企業でいうと、企業の中にプロジェクトのスクリーニングプロセスを入れ、企業の別のセクションで海外直接投資の話があったら、そのプロジェクトを少し見せてくださいと言うわけですね。ちょっと変えればCDM化できるかもしれないという話があれば、追加性という難しい問題も簡単にクリアできます。そういう工夫をすることにより、日本の高い技術をむしろ生かせます。日本の高い技術は海外、特に途上国では必要とされていないことが多く、ペイしない場合が多いですから、むしろ高い技術を使う場としてCDMを使っていただくことが可能になるわけです。

 今日の話の中でのわたしのメッセージとしては、この温暖化の問題は産業論的に考えた方がよいと思います。環境規制の帰結として、GHG排出削減が、新しいマーケットで新しい付加価値となります。その中で、日本の産業は(今低迷していますが)、技術的アドバンテージを持っているので、うまく立ち回れば、海外の国よりもその制度をうまく活用することができるはずなので、それをどうやればできるかの感覚で考えてください。温暖化問題はコストだけではなく、ビジネスオポチュニティー(機会)があり、どういうことをやればそれを最大限に活かせるかということです。日本の今後の国内制度設計に関しても、このことを考えていただければと個人的に思っています。

 

CDMはビジネスとして息長く続くのか

【茅】

 もう少し質問します。今度は逆の順番でお聞きします。松尾さんのおっしゃることはよく分かるのですが、私が気にしているのはロシアの批准問題です。彼らは批准しないとは言っていませんが、当分しない可能性がかなり高いということになると、少なくともロシアとの間で排出権の問題を議論することはできません。すると排出権といっても、結局は大きなマーケットがオープンにならないことが当分続きそうな気がするのですが、そういう中で、排出権の取引とか、CDMの動きはきちんと続いてくれるだろうか、要するに、ビジネスとしてそこまで息長く続いてくれるかということが多少心配なのですが、その辺り、どのようにお考えですか。

 

行動を起こさないことのリスクも評価する

【松尾】

 排出権取引制度に関しては、2005年からEUは動かします。EU15ヵ国プラス拡大EU諸国およびスイス、ノルウェー辺りが入ってきますので、かなり大きなマーケットが2005年から動きます。これは京都議定書がどうなろうと彼らはやります。それからロシアが入ってくるかどうかの問題は確かにありますが、私の情報ではプーチンさんは基本的に批准しないということはないと思います。しかし、不確実な要素が残っているのは確かです。逆に、マーケットの大きさといったときに何なのかは、価格に比例するという考え方もあります。そういう意味で、ロシアが入らなければかなり足りなくなる可能性があるので、排出権の値段は上がります。そこからすると、マーケットはかなり大きくなると言えるかもしれません。

 少なくともヨーロッパが本腰を入れてくるので、たとえ京都議定書が日の目を見ないことになっても、EUが新しい動きを提案してくるのは、間違いないと思います。タイムラグがあるのは仕方がないし、アメリカ、ロシアの問題は単純ではなく、また、途上国の参加問題もありますが、それなりに前には進んでいきます。タイミングは遅れるかもしれませんが、遅れれば遅れたで準備する時間ができたと考える良い面もあるので、いろんな側面を見ながらやることです。ロシアがどうするかのリスクがあるのは確かですが、今行動を起こさないことのリスクもきちんと評価してやっていただきたいと考えます。

 

消費者に対して非価格的インセンティブを与える必要があるのではないか

【茅】

 いろんな議論があり、言われたような見方もあると思います。西條さんに質問です。私が経済学者ではないからそう思うのかもしれませんが、上流で税金を掛ければ価格弾性で下の方まで影響が出て、自然に減るというコンセプトがどうも腑に落ちないところがあります。確かに計算上そうなるのですが、例えば、地球温暖化推進大綱では民生、運輸、産業にそれぞれ三分の一ずつ省エネルギーの負担を割り当てる方式をとっていますが、一応最上流の見方からすれば、この割り当て自身が本来おかしくて、こんなものは全く使わない方がよく、そうすると、一定の価格を与えれば自然にどこかで減ることになると思いますが、一方において、価格弾力性というものの数字を明確に計量数値化できているものではないのですが、よく調べてみると、消費者が主体で動く車、民生の半分の家庭では弾性値が非常に低いですから多分ほとんど減らず、減るのは産業部分だけです。ところが、現実には1973年以降の需要を見ると、民生、運輸がどんどん伸びて、産業の担当する部分と貨物が減る、ないしは、停滞する状況が続いており、それをさらに加速する形になります。これが一番望ましい答えだと思っておられるのかどうかということです。

 つまり、現実の問題として、一般国民が価格に鈍感であることが事実ですが、それだけ彼らにエネルギーが必要不可欠であるからであって、鈍感というより単に気にしていないだけが多いのです。

 やはり、ある範囲は消費者に対して非価格的インセンティブを与えることも大事と私は思っています。経済学者として価格だけで全てを律する考え方でいいと思っておられるのかどうかを伺いたいのです。

 

オークション収入によって、傷んだ産業を補填することもあり得る

【西條】

 京都議定書をギブンとするなら、われわれは価格で調整するしかありません。上流における炭素税ではなく、上流においてオークションという形で割り当てを販売する、海外から購入してもよいという制度ですから、仮に下流に負担が十分行き渡らなかったとしても議定書のターゲットは達成できます。それが第一です。

 下流の方にも何とか頑張ってほしいとおっしゃるのであれば、下流で若干税金を掛ける方法もあるし、オークションで上がったオークション収入を国家が用いることによって、傷んだ産業を補填することもあり得ます。Gトレード制度を骨格としておいて、下流で先生が車に乗るときにガソリンに対してもう少し税金を上げてほしいというのであれば、掛けることに関しては全く問題はないと思っています。

 

【茅】

 私は税金を掛けろと言っているのではなく、一つの価格メカニズムだけで全てを調節しているロジックでは、やはり、現実には機能しないのではないかと思います。その意味では、今西條さんが言われたように、提案した制度に対していろんな形の補償を加える考え方がおありならばそれはそれでいいと思います。

 

【西條】

 Gトレードと付くのは、大きな骨格だけですから、例えば、経団連の自主行動計画をGトレードの制度の中に埋め込むとか、下流の方で、炭素税に相当するものを若干掛けることは全く問題ないと思っています。

 

排出権の方が環境税よりも分があるのか

【茅】

3人の方のお話を伺うと、どうやら排出権の方が環境税よりも分があるようですが、工藤さん自身もそのようにお考えなのか、あるいは、環境税に何らかの意味でいいところがあると思っておられるのか、どうですか。

 

■政策措置の比較論の中で選ぶプロセスを経る

【工藤】

 一番怖い質問が来てしまいました。環境税をやるにしてもその課税ポイントをどこにするかで全く形態が違いますし、その政策目的としてどういうことを期待するかによってもその必要性は違ってきます。

今お話しのガソリン価格ですが、末端の方に必要性を訴えたいというのは、これはアナウンスメント効果です。一方できちんと量的に税金だけで削減したいのか、京都目標を、税金を導入したら何%達成できるという担保をきちんと取ってそれをやるのか、あるいは、先生が先ほど指摘されたように税収を管理して、これだけ削減できるということなのか。税金そのものが持つ役割をどうするのかが大事なわけです。その役割に応じた効果を見積もることにより、その制度を評価しないといけない。最初から環境税が是か非かということではなく、その効果をどう見積もるのかが第一にあって、それに加えて、他の政策との比較を行う。日本の政策措置の選択基準の中に経済効率性があげられているかはもやもやとしているところがあるかもしれませんが、政策措置の比較論の中で選ぶプロセスを経ないと、おそらく説得力はないと思います。 

 先ほど、西條先生がご指摘になったガソリンに少し税金をかけて、消費者に注意を促すということが、もしかしたら一番説得力があるかもしれませんが、目的と効果をきちんと見極めることが、まず環境税の是非論なり、他の政策の比較をする上で大事なことと考えます。

【茅】

 ありがとうございました。それでは皆さまから、ご質問、ご意見を受けたいと思います。

 

排出権を買ってくるための費用を国が持っておく

【大阪ガス 白木】

 西條先生に伺います。Gトレード制度を初めて聞きました。エネルギー輸入業者に負担をかけることになりますが、その費用負担が最終的に消費者に料金として振り分けられる意味では、環境税とほとんど変わらないと思います。

ただ、その税率、負担の度合いが国から指定された税率でいくのか、市場メカニズムで、その負担が決まるというところが違うかと思うのですが、これは、茅先生が心配されているように、エネルギー消費が減らないとしたら、その枠を買うための負担がどんどん増えてくることになります。

自由化で海外競争力を高めるために料金を安くしろと自由化をどんどん進めている政策があり、にもかかわらず、料金を上げることになります。結局、ここは国際競争力が失われていくことになると思います。

そういう無理をするよりも、最終的には、国同士の排出権取引で買ってくる方が一番安く、楽ということになると思います。Gトレードも一種の国内排出権取引制度と思うのですが、そういうことをしなくても、環境税で外から買ってくるための費用を国が持っておくということでも、いいのではないでしょうか。何か無理があるように感じます。

 

環境税の場合、どれだけ削減できるか分からない

【西條】

 まず、環境税と私が提案しているGトレードとは全く違います。環境税の場合、どれだけ削減できるか分かりません。税率を与えておいて国内でどれだけ削減できるかは、景気の変動もありますから、どんなに賢い計量経済学者が計算したところで分かりません。しかし、Gトレードの場合だと、日本が持っている割り当てを原資とします。足りない場合は海外から買ってくるのですから、自動的に議定書のターゲットを達成できる利点があります。

 次に、国際競争力の方ですが、国内産業は相当傷んでいるのでどうしてくれるのかという話ですが、私が国内産業に負荷するのは全世界で多分ついてくるであろう排出権の価格というものをインポーズするものであって、それ以上のものはしません。そういう環境の中で、日本の産業の皆さんには世界と戦ってほしいということです。

 先ほど、松尾さんが言われましたが、日本の産業が持っている高い技術力を活かし得るとするならば、たとえ排出権価格分が上乗せされたとしても、他の部分の努力でエネルギー価格はそれほど上昇しない可能性もあります。

 最後に足りない部分は国同士で取引したらと言われましたが、日本の官僚諸君が、カウンターパートである、ロシア、ウクライナの政府担当者と上手に交渉して、本当に安くできるのかどうかという疑問があります。その意味合いでも、私たちの提案する形で民間の企業の方々がこういう制度の中に入って、世界と戦ってほしいと考えます。

 

【茅】

 今質問した方の言葉の中に、これは国内の取引ではないかという話があったのですが、そうではなく、これは、企業が国際的に取引を行ってやるわけですね。

 

【西條】

 おっしゃるとおりです。

 

【茅】

 国の代わりに企業が自由意志で、国外から買う制度を提案しておられるようです。

 

国内のエネルギー産業が世界の巨大産業に飲み込まれる危険性がある

【大阪ガス 松村】

 今の質問に絡むのですが、上流で売買の仕組みを作るとすれば、巨大資本が独占していく傾向が出てくると思います。そうすると、国内のいろんなエネルギー産業が世界の巨大産業に飲み込まれてしまう危険性もはらむ提案ではないかと考えます。その辺りのバランスの問題についてどうお考えですか。

 

【西條】

 巨大資本とはどこですか。

 

【大阪ガス 松村】

 メジャーなどが取引の源泉を全部自分のものにして、世界のエネルギーを動かすという仕組みも出てくると思います。

 

関与する企業は日本の石化業界の方々

【西條】

 Gトレード制度以外の場合でも、もし、日本がターゲットを達成しようとするならば、海外から排出権を購入しないと駄目です。これは、Gトレード制度にかかわる問題ではありません。Gトレード制度に関与する企業というのは、日本の石化業界の方々です。

 石化業界の方は、化石燃料を海外から持ってこようとするときに、炭素合有量に応じて政府から排出権取引権を購入、ないしは、CDMで海外から排出権のクレジットを獲得します。JIでも構いませんが、日本の下流の企業、例えば、大阪ガスが天然ガスを購入する場合、石化業界の方へ向かって、うちはこの冬のためにこれだけの排出権をロシアから確保したので売ってほしいということもできます。石化業界数百社だけでなく、全ての企業がこのマーケットに参入して、取引できる制度を考えています。

 

先行投資の形でかなりの金額が出ていく

【パウワウプール 若林】

 CDMについてお伺いしたい。勇気を出して今年からCDMPDD作成のための調査に入ろうとしています。実際調べ始めて気が付いたのですが、PDDの作成などに非常に費用がかかります。私ども弱小の中小企業が一旦やり始める場合、先行投資の形でかなりの金額が出ていくような感じがしています。先ほど、松尾先生がやらないリスクの話の中で、いろいろとやることを推薦されていましたが、今後PDDを作り、CDM事業をやっていくときのリスクはもっとあるように思われます。

 一つは、ホスト国にいくらくらいのクレジットを置いてこないといけないのか、そうすると、余ったものを日本に持って帰ってきて、売るときにきちんと回収できるのかという問題も出てくると思います。もし、現時点でどれくらいの排出量の規模があれば、CDM事業としてやってもいいと思われているのかお聞かせください。

 

皆が知らないうちに情報を獲得して戦略を立てる

【松尾】

 CDMをやるためには、まず、PDDを書かなければなりません。これは、結構テクニカルな話です。だからこそ私はそれでコンサルタントみたいなことをやっているわけです。ただ、始まった頃と比較して、私の実感として、皆さん、かなりやり方が分かってきたように思います。たとえばコンサルタントが直接書かなくても、ある程度書いたものを見せていただきその修正ということになれば、それほどお金のかからない話です。しかし、皆さんができるようになってからやっているのでは遅いのです。結局、新しいマーケットでビジネスをやるときには、まだみんなができていないから、いろんなことを先駆的にやることが重要です。当然リスクはありますが、オポチュニティーもあるという考え方は受け入れざるを得ないと考えます。

 それから、どれくらいのプロジェクト規模であればということですが、当然ながら大きな規模であれば、PDDにかかるお金は取るに足らない額になってしまいます。そういう意味で言えば大きい方がいいのですが、ある会社の得意とするタイプのプロジェクトにそんなに大きな規模がなかった場合は、例えば、大きな規模プロジェクトできる会社と組むのが一つのやり方です。一方で、スモールスケールCDMというのがあります。たとえば、再生可能エネルギーで15メガワット以下のプロジェクトは、最初の手続きはかなり簡略化されていますから、コストも少なくて済みます。お金がかかるから、一回目は練習で小さい規模のものをやってみようというのも一つの戦略です。

CDMにはいろんなやり方がありますが、さまざまなリスクはあります。例えば中国は、ポテンシャルは世界で一番大きいことは確かですが、まだいろんな意味で危険です。大きな国で比較的やりやすいのはインドかもしれません。中南米もリスクは少ないです。そういうノウハウはいくつかあります。まだみんながが知らないうちにきちんと情報を獲得して、自分のやれることはなんだろうということを考えながら、戦略を立てることでしかないと思います。

本当に魅力あるプロジェクトは少なくなってきている状況ですが、途上国が一杯あるのも確かです。

最近のトレンドとしては、むしろ途上国の企業が、われわれこんなGHG削減プロジェクトのオプションがあるのだと、持ってくる場合があります。先進国の側からテクノロジートランスファーの形で持っていくのではなく、むしろ、途上国がビジネスパートナーを見つけてお金を出してくれませんかということは、最近ではよくある話で、このようにいろんなチャンネルがあります。その中でどれがいいか、たまたま見つかるものもあれば、自分で探しだすものもあり、相手を探すのも一つのノウハウですし、そういうところをきちんとやり、どうやって戦略を立てるかをやっていただくということでしかありません。

 

製造業自体が出て行けば、税金を払う人が逃げてしまう

【京都大学 武田】

 あまりこの分野は知らないので、とんでもない質問をするかもしれませんが、例えば、炭素税、CDMにしてもこれだけのものを払わなければいけない、これだけのものを準備しないといけないとなると、いっそのことそういうことの関係のない国でやろうとなり、例えば、製造業自体が出ていけば、税金を払う人が逃げてしまいます。あるいは、CDMも関係なくなってしまいます。しかし、炭酸ガスが出てくる問題が起こってくるので、逃げないようにしながら、取ることを考えていかないといけないように思うのですが、どうですか。

 

【西條】

 炭素リンケージの問題だと思いますが、先進国で何がしかの負荷がかかってしまうがゆえに、この産業が国内から出ていってしまうということですが、例えば、Gトレード制度の場合だと、適当に国家が排出権を販売することにより、収入が入ってきますので、そういうところで手当ができるかもしれません。

 もう一つは、こんなことを言ってしまうと酷な話になってしまうかもしれませんが、排出権が掛かろうが、掛かろうまいが、それくらいで衰退していくような産業は仕方のない部分があるかなと思います。

 

重要と思われるところは免減税措置をやる

【工藤】

 税金のことを言うと、欧州ではまさにこういうことを懸念するがゆえに、産業界、特に、製造業などそれぞれの国が重要と思われるところは必ず、免減税措置をやるわけです。従来、環境税は公平な負担うんぬんという話をしながらも、やっぱり、経済の空洞化も含めた影響を軽減するために、免減税措置を取ります。ですから、政策サイドがある程度裁量を持つならば、どれくらいの免減税措置を取ればそういった産業界に対するインパクトが少なく、かつ、産業のリーケージも起こらないということも念頭に置いた検討なり、交渉が行われる可能性があるかと思います。それとは別に先ほど松尾さんがちらっとご指摘されていましたが、炭素排出量を軽減していく社会、産業構造転換を目指すのということを政策サイドが意図するのであるならば、また違った意味での組み込み方も出てくるかと思います。その辺り、どういう目的でどういった産業構造を求めるかということによってやり方は変わってくると考えます。

 

【茅】

 それでは、本日のパネルディスカッションはこれで終わりにしたいと思います。どうもご清聴ありがとうございました。

 

用語解説;

京都議定書2008〜2012年の目標期間に先進各国が達成すべき温室効果ガス(GHG)の削減目標を定めるもので、1997年に京都で開かれた気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)で採択されました。わが国は2002年6月に批准し、2008年から2012年までの5年間のGHGの平均排出量を、基準年(1990年) 比マイナス6%(2000年比ではマイナス14%)とする目標を達成しなければなりません。一方で、アメリカの議定書からの離脱、ロシアの批准時期、森林の温室効果ガス吸収量についての合意形成などの問題が残されています。

京都メカニズム;京都議定書では、各国の数値目標を達成するための市場原理を活用する仕組みが導入され、具体的には共同実施(JI)、クリーン開発メカニズム(CDM)、および排出権(量)取引を指しています。

共同実施(JI);先進国同士で実施され、投資対象国でCO2を削減する手段に投資をした国が、その見返りに排出削減単位をクレジットとして獲得できる仕組みです。

クリーン開発メカニズム(CDM);先進国と途上国が共同で温室効果ガス削減プロジェクトを途上国において実施し、そこで生じた削減分の全部または一部を先進国がクレジットとして得て、自国の削減分に充当できる仕組みです。

環境税(炭素税);製品やサービスなどの価格に、環境負荷(環境の利用)に応じた税金を上乗せする課徴金制度のことです。環境保全費用の財源となる上、環境負荷を軽減する効果があります。代表的な環境税として、温暖化物質である二酸化炭素の排出削減のためガソリンや重油、石炭等の使用量に応じて課税する「炭素税」があり、1990年代に入ってフィンランド、ノルウェー、スウェーデンなど北欧各国で、そして最近ではドイツやイギリスで導入されています。日本でも自動車税のグリーン化をはじめ導入に向けた検討が進み、新しい環境基本計画では各論部分に経済的手法の一つとして盛り込まれています。

排出権(量)取引;温室効果ガスの排出許容枠を売買する仕組みで、温室効果ガスの削減目標未達成の国または企業が、達成した国または企業から排出権を買い取ることです。

Gトレード制度;上流型の排出権取引制度の一つであり、温室効果ガス排出総量とその価格をコントロールするために、化石燃料の輸入業者を主な対象とし、国が排出権をオークションで販売する制度です。

以上



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